猿の葬儀

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 おれは大急ぎで玄関に向かった。鍵とドアを開けると、レジ袋を抱えるようにして持っている百合香さんが、頬をほの赤くしながら立っていた。 「外は暑かったんじゃないですか? 大変だったでしょう」  おれはレジ袋を百合香さんから受け取った。 「いえ、車で行ってきましたから、そんなには」  なるほど、百合香さんの言うとおり、うちのせせこましい庭には、昭和の面影を感じさせる錆だらけの軽自動車が一台止まっていた。 「ほら、おばあちゃんと一緒に来るとなるとなかなか大変でしょ」 「ああ……」 「やっぱり八十を超えたおばあちゃんを、電車やバスで連れまわすのも良くないかな、と思って」  そうですよね。そっちですよね。もちろん、おばあ様の身体のためでしょうとも。私はおばあ様が猿のお姿をしておられるから、車で来られたなんて微塵も思っておりませんでしたよ。 「こっちに止めたんですけど、良かったですか? このまえ来たときは近くのパーキングに止めたんですけど、もし不都合があれば言ってください」 「いえ、何も問題ありません。どんどん止めてください。それより暑かったでしょう。早く中へ」     
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