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おれは百合香さんを誘導する。はい、すみません、と言いながら百合香さんはハンカチで汗を拭った。柑橘系の甘い香りが漂ってくる。百合香さんは清楚な身なりのどこにこんなかおりを隠していたんだろう。おれは思わずドキッとした。
百合香さんと協力しながら、レジ袋をミドリさんが待っている応接間まで持っていく。
レジ袋を開くと、熱々の弁当が三つ入っていた。
おれから百合香さんへ、百合香さんからミドリさんへ、順々に弁当を渡していく。受け取ったハンバーグ弁当のふたを開けると、湯気と香ばしいかおりがおれを包んだ。いただきます、と手を合わせてからさっそく箸をつけてみる。
「あ、これうまいっすね」
厚みのあるハンバーグからあふれ出す肉汁。口の中に入れるとほんのりとした甘みが広がる。付け合せのつやのあるにんじんのグラッセやほんのりと胡椒のきいたスパゲティも悪くない。
「そうですか? 良かった」百合香さんはにこりと笑顔を見せた。「チェーン店のお弁当屋さんなんですけど、私も大好きなんです」
「何て店ですか?」
おれがそう訊くと、百合香さんは丁寧に店の名前と、一番近い店の場所まで教えてくれた。おれはしっかりとそれをメモ用紙に書きとる。
「純一さん」
不意にミドリさんが横から口を出してきた。
「何ですか?」
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