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しかし……、いつまでたっても慣れない。おれの目の前に座っているのはどう見ても猿なのだ。
「まあ、いいわ。ちょっと聞いてくれるかしら」
「何をです?」
急な申し出にどぎまぎしてしまう。
「懺悔……、かしら。愚痴と言った方が正しいかもしれないわね」
「よく分からないですけど……、聞くだけなら」
「よかった」
ミドリさんはおれに向かって笑顔を見せた、のだと思う。正直、猿の表情というのは微妙すぎて普通の人間には怒っているのやら、笑っているのやら、あるいは悲しんでいるのやら分からないことがある。
「私はもう死んでるって話はもうしたわよね」
「は、はあ……」
そんなことをストレートに言われると、どんな反応を返せばいいのか迷ってしまう。
「でもね、本当は自分でもよく分からないの。自分が生きているのか、それとももう死んじゃってるのか」
「はぁ?」つい声が上ずってしまった。「ご、ごめんなさい。びっくりしちゃって……」
すかさず謝る。
「いいのよ。純一さんがそんなふうになるのも当然なの。ごめんなさいね。びっくりさせちゃって」
「い、いえ」
「自分自身、よく分かってないからこういうあいまいな言い方しかできないんでしょうね。ほんとのこと言うとね、私、ときどき自分が二階堂ミドリじゃないんじゃないかって思うことがあるの」
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