猿の葬儀

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「そんな、そんなこと言わないでくださいよぉ」自分でも想像してなかったくらい弱々しい声になってしまった。「おれ、今でもあなたが本当に人間かどうか半信半疑なんだから。おれがあなたを猿じゃなくて人間だって思えるのは、あなたが流暢な日本語をしゃべってて、ばあさんのために泣いてくれて、そして何よりあなたが自分のことを人間だって、二階堂ミドリだって言ってるから、本当にぎりぎりのところであなたを信用してるんです。それなのにあなたまで分からないって言いだしたら、おれは何を信じたらいいのか分からなくなっちゃうじゃないですか!」  ミドリさんはふっと細く息を漏らした。 「そうね……。じゃあ、まずは私の話を聞いてもらおうかしら。そうしたら、純一さんにもなぜ私がこんなに混乱しているのかを分かってもらえると思う」  おれは身を乗り出してそれに反論しようとした。ミドリさんはそれを小さな前の手で押しとどめた。 「待って。あなたの気持ちはよく分かるわ。でも、まずは私の話を聞いてからにして。その後で、質問でも罵倒でもなんでも受けつけるから」  ミドリさんの言葉は淡々としていて、静かに耳へ響いた。でも、その奥には燃えさかる炎のような激しい決意が感じられて、おれはそれ以上抗議をするのをやめた。そして、おれが納得したとみるや、とうとうと話し始めた。  少し前に起こった大水害、純一さんもまだ覚えてるわね? そう、全国ニュースにも取り上げられた、あれよ。こんなこと訊くのも失礼だったわね。だって、まだ二ヶ月しかたってないんですもの。齢をとると、時間の感覚が分からなくなっていやだわ。     
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