猿の葬儀

28/61

7人が本棚に入れています
本棚に追加
/62ページ
 あのときは地下鉄の駅も、地下街までも水浸しになったわね。排水溝から水が噴水みたいに飛び出してきて。お亡くなりになった方や行方不明の方も県内で数十名おられて。本当に悲しい出来事だった。あら、やだ。忘れてた。私もその中の一人に数えられていたんでしたね。  もちろん分かっていましたよ。大雨警報も、暴風警報も、洪水警報も出てたんですもの。危ないに決まってますよね。市役所から避難勧告を呼びかける車も何回も往復してましたし。でもね、畑をたがやして、作物を育ててるとどうしても気になるものなの。あんなひどい天気の日なら、なおさら。雨合羽を着こんで、畑まで出かけたわ。もちろん、百合香は止めたけどね。玄関先で十分ぐらい喧嘩した。おとなしい子だと思ってたけど、意外と言うときは言うのね、あの子。まったく誰に似たのかしら。でも、最後は私が押し切った。強情ぶりでは私の方が百合香よりも上だったみたいね。でも、百合香もただではひかなかった。私も連れてけって、そうじゃなきゃ行かせない、って、その一点ばりで。危ないからついてこないでって、言おうとしたけど、それじゃ墓穴を掘ることになるでしょ。しぶしぶ了承したわ。     
/62ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加