猿の葬儀

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 雨風に押し戻されながら、私と百合香は何とか畑までたどり着いた。思ったとおりの大惨事だったわ。畑全体が水没してて、きゅうりやなすびなんかがぷかぷか濁った水の上に浮いてた。本当に涙が出てきて、雨のおかげでなんとかそれはごまかせたけど、百合香はさすがに気づいたみたいね。私の後ろでずっと心配そうな顔をしていたわ。  それで、この様子じゃ奥の畑はもっと大惨事になってるに違いないと思ったわけね。後から考えれば、もう手前の畑を見た段階でもう手の施しようがないわけだから、見に行こうが行くまいが一緒なんだけど、やっぱり人間ってバカなのね。いえ、私がバカなだけなのかもしれない。見に行ったところで余計に嫌な気持ちになるだけなのに。心が無性に浮ついて仕方なかった。そんな状態で、嵐の中、足元が悪いあぜ道を、よぼよぼのおばあさんが歩いたらどうなるか。分かりきってるわよね。そのまま足を滑らせて、下の川に落ちたわ。     
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