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「こちらにおります私の祖母が、こちらのおばあ様のいとこにあたる人間なんです」
「へぇ、いとこですか! それはどうも、初枝のために。どちらからおいでになったんですか?」
「花立市です。今、親元を離れて祖母と二人暮らしで」
「花立市ですか。それはまた遠くから……」
そう言いかけて、おれは目を疑った。
女の横には猿が立っていたのだ。毛は茶色く、顔はほおずきのように赤い。顔立ち、背格好、どこを見ても純然たるニホンザルだ。猿は服を着て、ショールを頭にかぶり、眼鏡をかけ、靴まではくという完全装備だった。
「私、初枝さんのいとこの二階堂ミドリと申します」
猿はそう言いながらお辞儀をした。
たまげたなぁ。猿がしゃべってやがるぜ。
「ほぅ。お上手ですね。腹話術でも使ってらっしゃるんですか?」
「腹話術? どういうことでしょう?」
女は首をかしげる。
「ちょっと来てください」
猿は小声でそう言いながら、おれの手を引っ張った。けげんそうな顔をしている孫を横目に見ながら、おれは猿に手を引かれるまま、庭に植えてあるナンテンの樹のそばまで連れてこられた。
「あの子にばれないように協力してくれませんか」
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