猿の葬儀

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 目の前に鮮やかな光景が現れると同時に、周りをうなるような轟音が包んでいた。ぼんやりした頭を動かしながらあちらこちらを見てみた。身体の下はごつごつした岩。目の前には滝が一直線に落ちてきていた。落ちた水は滝壺にすいこまれ、濁ったしぶきをまき散らしていた。もちろん、川の流れも同じくらい濁っていて、死後の世界っていうのは死ぬ間際に見た景色がそのまま映し出されるんだな、って妙なところに感心していたわ。  でも、しばらく経つうち何かがおかしいことに気づいてきた。ううん、周りの景色はまったく問題がなかったのよ。おかしかったのは自分の方。手も足も思いどおりに動かないし、何だか背が低くなったような気がして仕方がなかった。そして、何気なく自分の手を見てみたの。  しばらく、物を考えることすらできなかったわ。だって、いつもより手がずっと小さくて、何より手に今まで見たことのない茶色の毛がふさふさと生えていたんですもの。そして自分の顔を触ってみた。作り物の顔みたいな感触。そして人間とは思えない輪郭。なんとなく頭をよぎるものはあったわ。でも、確信はもてなかった。考えたくなかったっていうのもあったでしょうね。  でも導き出した答えがどうしても否定できなくて、どうにか私はその結論を受け入れたわ。そう、私の身体は猿になっていたのよ!     
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