猿の葬儀

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 輪廻転生、まずそれを考えたわ。あれだけの急流だったから死んで当たり前だものね。私は死んで生まれ変わったんだわ、そう思った。でも、よくよく考えてみると、それじゃ理屈に合わないことに気がついた。だって、私の大きさはどう考えても子猿というのには大きすぎたんですもの。そしてもう一つ、これはそんなことよりもずっと大事なこと。私は猿ではなく二階堂ミドリの記憶と意識をもって生きてたのだから!  私はもともと頭がそんなにいい方ではないけれど、そのときは無い知恵をしぼって一生懸命考えたわ。そして一つの結論にたどりついた。思い出してもらいたいんだけど、私は死ぬ前に猿の姿を見てた。私と同じように濁流に流される哀れな猿の姿をね。  私は悟ったわ。ものすごく突飛で非科学的な考えだけど、それしか思いつかなかった。そう、猿の身体に私の魂が乗り移ったんだって。  私はしばらく呆然としていたわ。意味もなくその辺りをうろうろとしたりした。そして雨に濡れきった岩場に腰かけると、大きなため息を一つついた。  生きていることを喜ぶべきか、それとも猿になってしまったことを悲しむべきか分からなかった。そしてすごく混乱した。しばらくその場で頭を抱えていたわ。こんなに苦しんでいても人間の目から見たら、猿が何か悩んでる滑稽な光景にしか見えないんだろうなって、ときおり自嘲しながら。  だんだん落ち着いてくると、自分がひどくのどが乾いていることに気がついた。あれだけ水を飲んだのに、って一瞬不思議に思ったけど、考えてみればこの身体は私の身体じゃないわけだし、ごくごく当然のことなのよね。     
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