猿の葬儀

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 そこで安心してしまったのがよくなかったのね。ちょうど私と百合香が住んでいる家のほんの目の前で近所の男の人とあってしまったの。  なんだ、おまえは。男の人は白髪だらけの髪を逆立てながら憎しみに満ちた目を私に向けたわ。普段は優しい人なんだけど、大雨で家や畑に被害が出た後だったから、多分気がたっていたんでしょうね。すごい剣幕でこっちに来ると、つばをまきちらしながらこう叫んだ。このクソ猿、あっちへ行け。  私はもどかしさと情けなさと悲しさで、身体がねじきれそうになった。そして一瞬迷ったわ。何も言わずここからさっさと逃げるべきか。それともきちんと説明するべきか。でも、選択の余地は無かった。その男の人がいきなり棒で殴りかかってきたんだもの。  やめて、そう言ったつもりだった。いえ、実際に私はそう口にしたの。でも、男の人は躊躇なく殴りかかってきた。一回、二回、私の身体に棒が打ちつけられた。うちつけられれるたびに何とも言いようのない音を立てて私の骨が軋んだ。  やめて、やめて。私はそう言い続けた。でも、男の人は私を痛めつける手を休めることはなかった。そして、つばをまき散らせながら言った。気分の悪い泣き声を立てるな、エテ公!     
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