猿の葬儀

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 猿がおれに耳打ちをする。おれはめいいっぱいかがんでそれを聞く。何せ向こうは四つん這いで歩いてるから、口元が低くて仕方がない。   「あなたが猿だということを?」 「ええ。あの子は、百合香は私を人間だと思っているんです」 「まさか?」  でも、相手の表情は真剣だった。どうやら本当らしい。厄介なことになっちまったな。 「はぁ。どういう事情かよく分かりませんがとりあえず協力しましょう」  まさしく猿芝居だ、と心の中でにやけながら、猿の孫である百合香さんに、 「やあ、おばあさまと世間話をしていましてね」  とわざとらしい口調で言ったら、猿にジロリとにらまれた。おお、(こわ)。 「お線香あげさせてもらっていいですか?」  女が片手いっぱいの荷物を持ち上げながら言う。 「もちろん。いいですとも」  ちょっと猿の方を見てみると、ちょうちょが飛んでいるのを呑気そうに眺めていやがる。いい気なもんだぜ。  百合香さんは靴を脱いで、玄関に座った。そして、猿の靴も一緒に脱がせ始めた。  おれの目線に気づいたのだろう。百合香さんは苦笑いを浮かべた。 「祖母は小さいころ事故で指先を失っているんです。右手の指を一本と、左手の指を二本。一人で靴をはくのもなかなか難しいんですよ」 「はぁ、そうですか。それは大変でしたね」     
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