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「ていうか、そもそもなんでうちにお参りになんか来たんです? ばあさんを弔ってくれたのはうれしいですけど、うちに来たら厄介なことになるのは分かりきってたじゃないですか」
「もちろんそれは分かっていたわ。でも、この前うちに電話がかかってきて初枝ちゃんが亡くなったって聞いたとき……」
「ちょっと」おれはミドリさんの話をさえぎった。「なんで電話に出れたんです?」
「百合香が出たのよ。私は百合香から聞いただけ」
「なるほど。続けてください」
「初枝ちゃんが亡くなったって聞いたとき、無性に初枝ちゃんの仏前に手を合わせたくて仕方なくなったの。もうずいぶん会えてなくて、ずっと気にしてたんだけれど、亡くなったって聞いていてもたってもいられなくなって。私が猿だって誰かにばれることなんてもうどうでもよかった。それよりも自分がこれから先ずっと後悔しつづけることの方がよっぽど怖かったから」
「すみません、ばあさんのために……」
「なんで謝ってるのよ。私が拝みに来たのはあくまで自分のためなんだから」
ミドリさんがおれにかけてくれた一言はとても優しかった。ばあさんが生きていたころ、たまに見せてくれた優しさを思い出した。ぐっと気安くなったような気がした。
「一つ気になってることがあるんですけど」
「何?」
「その服、自分で作られたんですか?」
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