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今のミドリさんは普通の成人の半分以上に小さい猿の姿だ。といって、彼女が来ている服は幼児用の服ではなかった。よく言えばオールドミスが着るような、悪く言えばババくさい服だった。そしてそれは猿のミドリさんにとてもよく似合っていた。
「ええ」ミドリさんは明るく言った。「若いころ洋裁の仕事をしていたの。うまくできてるでしょう。猿の指でよかったわ。ちょっと細かい作業をするには不向きだけど、生きていたころみたいに指が無いよりはましだものね」
「お似合いですよ」
「なんだか白々しいわね」
ミドリさんは苦笑した。表情はあまり変わらなかったけれど、そのくらいおれにも口調で分かるようになっていた。
「本当は服なんて着る必要ないんだけどね」
「そうなんですか?」
「家ではいつも裸だから」
それを聞いておれはうつむいた。たとえミドリさんが猿だとはいえ、おれの三倍以上の年月を重ねてるとはいえ、やっぱり女性の口からそういうことを言われると気恥ずかしい。
「でも、百合香さんはいいんですか?」
「いいのよ、あの子は」ミドリさんは遠くを見る目つきになった。「どうやらね、私が服を着ていなくても百合香にはちゃんと見えているみたいなのよ。私が昔着ていたスカートやらワンピースやらがね」
へえ、不思議だ。でも、百合香さんには、ちゃんと十本そろっているミドリさんの指が欠けているように見えていたのだから、いまさら不思議に思うことではないのかもしれない。
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