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「このお猿さんだって、本当は生きたくて仕方なかったはずでしょ。群れに子どもを残しているのかもしれない。好きなオスのことを想って死んでいったのかもしれない。なのに、私だけおめおめと生きていてていいのかなって、そう思うのよ」
「でも……」
「それに……、多分もうこの身体もそんなに長くないの」
「そんな」
「分かるのよ。もう長くない身体なんだって。動物の方が人間よりも優れている部分もあるわ」
「百合香さんが悲しみますよ」
「いいんじゃないの? いずれにせよ私だって無限に生きれるわけではないんだから。自分を守る誰かがいなくなればあの子だって気づくかもしれない。自分に足りないものにね」
おれが返す言葉を探していると、百合香さんが戻ってきた。
「二人とも盛り上がってますね。台所まで声が聞こえてましたよ」
「え、どんな話でした?」
おれは動揺して変なことを言ってしまう。
「話の内容までは聞こえませんでしたけど……。純一さん、何ですか、その顔? 私の悪口でも言ってたんですか?」
「いや、そんなことは……」
「百合香」ミドリさんがきっぱりと言った。「紅茶を入れてきてちょうだい。三人分」
百合香さんはこくりと頷くと、また台所へと消えていった。おれはほっと胸をなでおろした。
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