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それから数か月たった。
おれが休日のうたた寝を楽しんでいると電話のコールが聞こえた。スマートフォンじゃなかった。固定電話が鳴るのは三日ぶりのことだった。どうせ何かのセールスだろうと不機嫌になりながら受話器をとった。だが聞こえてきたのは予想していた営業用の不自然な声じゃなかった。
「純一さんですか? 早く来てください」
おれは頭の引き出しを一つ一つ開けて行って、声の主を探した。
「ああ、百合香さんですか? どうしたんです」
「大変なんです。おばあちゃんが、熱くて……」
百合香さんはそれから何やら意味の通らないことをごちゃごちゃと口走っていたが、緊急性を要することは何となく分かった。おれは百合香さんを落ち着かせるようにゆっくりと穏やかに言った。
「すぐそちらにうかがいます。住所を教えてください」
おれが息を切らせながらかけつけると、玄関の前で震えながら立っていた。
「ミドリさんはどこですか!」
おれは百合香さんが指さす部屋へ飛び込んだ。
ベッドの上に毛むくじゃらの生き物が背中を向けて寝転んでいた。
「ミドリさん、大丈夫ですか?」
おれは駆け寄って、ベッドの脇で身をかがませた。
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