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「純一さん……、百合香が呼んだんでしょう。ご迷惑をおかけしました。わざわざ来てくれなくて良かったのに」
「早く病院に行きましょう。おれが車までおぶって行きます」
ミドリさんは弱々しく首を振った。
「もういいのよ、純一さん。私はもう死ぬの。もともと死んだ命だったんだから。ここで死ぬのが一番自然なことなのよ」
「そんなこと言わないで、さあ背中につかまってください」
ミドリさんはまた首を振った。
「分かってね、純一さん。このままいけば私は動物病院で診察してもらわなくちゃいけないでしょ。そんなの嫌。私は人間として死にたいの」
「わがまま言わないでください」
ミドリさんはふっと笑った。おれはミドリさんの手をにぎった。その瞬間、ミドリさんの腕が人間の腕になったような気がした。思わず二度見した。ミドリさんの腕はさっきまでと同じように毛むくじゃらだった。おれは戸惑ったが、いつまでも戸惑っているひまはなかった。
それから先ミドリさんはいくら話しかけても返事をしなかったからだ。手足がぴくぴくとけいれんしていた。額を触ってみるとやけどをするかと思うくらい熱かった。
おれは急いでミドリさんをおぶうと、百合香さんに大声で尋ねた。
「ここから一番近い病院はどこですか?」
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