猿の葬儀

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 これには今までスカしていた目の前の女も困ったらしい。何か考え込んでいる。 「ちょっとお待ちください」  そう言い残すと診察室へ消えて行った。  その代わりに現れたのは、タヌキのような顔をした医者だった。常連の患者から人がよさそうと言われるタイプだ。そして、えてしてそんなやつらこそ一番信用できないものなのだ。 「あなたかね。先ほどから騒いでる患者ってのは」 「騒いでるってのは心外ですね。これは正当な要求なんだ」 「あのねえ、あなたのやってることは当たり屋そのものだよ。病院に死にかけの猿を連れてきて、専門でもない人間にそれを診察しろと言う。あなたのおかげで患者の診察が滞って仕方がない。事と次第によっちゃ威力業務妨害にもなりかねない案件だよ、これは」 「医は仁術なり、違いますか?」 「すぐそういうことを言う患者がいるんだ。病院に押しかけてきて、診断もろくに聞きもしないのにクレームをつけてくる患者がね。あなたの場合はそんな患者たちよりいっそうひどい。私は動物の専門じゃない。職責の範囲を超えてしまえば、医は仁術なんて言葉もただの難癖だよ」 「あなたは早とちりをしています」 「何?」 「おれは人間としてこの人を診てほしいんです」     
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