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「そんなことできるわけないじゃないか。たとえ君の言うとおりこの猿が人間の心を持っていたとしてもだよ。肉体はどこからどうみても猿じゃないか」
「分かってます。ふりでいいんです」
「ふりとは?」
「診察をしてるふりだけでいいんです。この人は人間として死にたがっていた。だからおれも人間としてできるだけのことをしてあげたいんです」
「そうは言ってもねえ……」
タヌキ医師はミドリさんの首筋に触れた。
「こいつはもうだめだよ。動物に関しては素人の私にでも分かる」
「そんなことを言わないで……」
「死んでいるものをこれ以上どうしろと言うのかね」
タヌキ医師は静かに言った。
おれはミドリさんの亡骸を抱いて、彼女と彼女の孫が住んでいた家へと向かった。
「純一さん、お帰りなさい」
百合香さんが心配そうな表情で迎える。
「百合香さん聞いてください」
「純一さん……、その両手で抱えているものは何ですか?」
「何って、ミドリさんじゃないですか。二階堂ミドリ、あなたのおばあさんですよ」
「だって、それは……、それはどう見ても猿じゃないですか」
その通りだ。だが、あなたはさんざんその猿を祖母と呼ばわってきたのではなかったか。
おれが唖然としていると、百合香さんは畳みかけるように言った。
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