猿の葬儀

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 まだ二十代だった彼が、空き寺だったその寺の住職になることが決まったとき、近所の人間は喝采をあびせた。こんな寺によく来なさった、こんなに若いお坊さんが、そう言ってありがたがった。それは、実際に住職になってからも変わらなかった。  住職は比較的安価に葬式や法要を行ってくれたし、寺の改修のための寄付を、檀家の有志が申し出ても、住職は、みなさんの生活があるでしょう、私はこのままの寺で十分です、と言って断った。近所の人間は、なんて清貧な方だろう、と言いあった。  さらに住職が尊敬を集めるきっかけとなった出来事がある。住職が寺に来てからほどなくして、寺から女のすすり泣く声が聞こえるようになった。たちまち、あの寺には幽霊が出るといううわさが広がっていった。檀家たちは住職に除霊をするよう勧めた。だが、住職は笑ってこう言った。私には仏様がおられますから、その幽霊を憐みこそすれ、怖く思うことなどありません。この言葉に檀家たちはいたく感動し、住職には聖僧との評判が立つようになったのだ。     
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