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もしそうだとしたら、今こそおれは住職の「徳」にすがるしかないと思った。おれは、度のきつい焼酎とそれに合うような高級なつまみをみつくろって、ぶら下げて行った。
境内から大声で住職を呼ぶと、
「なんだ、純一か。入れよ」
という気怠そうな声がした。
ところが、おれが持ってきたみやげを見たとたん、住職の顔がゆるんだ。
「お、気がきくやんか。いつもは手ぶらで来るくせに。今日は雪でも降るっちゃないや?」
「別に何でもないよ。たまには一緒に酒でも飲もうと思ってさ」
「怪しい……」住職が疑わしげな目つきでおれの顔をのぞきこむ。「いつも、おれが酒飲んでたら、露骨に嫌な顔するのに。それが一緒に飲もうだなんて、どういう風の吹きまわしだ?」
「た、たまにはおれだって羽目を外したくなることもあるさ」
「それと」住職がおれの横の包みを指さす。「そのでかい包みは何や? それもみやげか?」
「いや、これは……、おみやげじゃないんだけど……」
「おまえ、それ死体じゃないやろうな?」
住職はにやつきながら風呂敷包みとおれを交互に見た。
「まさか……」
おれはうまくごまかしたつもりだったが、どうやら相手はおれの態度に嘘のにおいを感じ取ったらしい。急に住職の顔が真剣になった。
「おい、おまえ、本当に……」
住職は風呂敷包みの結び目をほどこうとしていた。
「やめろよ、乱暴に扱うなって!」
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