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「そのじいさんも、俺たちと同じ地獄に堕ちるようなヤツだ。その様子からして、よほど酷いめにあったんだな。いったい何をされたんだ?」
暴力男が尋ねる。
「あの……」
ローラー女が言いかけた時、それまで無言だった船頭が背筋がゾッとするような掠れた声で「到着だ」と言った。
舟が船着場に到着した途端に、見るからに恐ろしげな鬼たちが、ゾロリゾロリと現れた。
「オラッ!早く降りろ、亡者どもめ!」
鬼たちに急かされて、六人は次々に舟を降りる。
暴力男、浮気女、轢き逃げ店長、横領男、ローラー女、そして不気味な謎の老人……
老人が降りようとした時、そこにいた鬼が、老人に向かって敬礼した。
「お勤めご苦労様です。裁判官殿!」
その言葉に老人は、悠々と片手を挙げて応える。
「うむ、やはり今回も全員、有罪じゃな。誰一人、反省の意思も無い。特に、そこの女は家族として可愛がっていた猫を殺された仇討ちであった事を考慮して、あえて儂の正体を教えた上で、全員が極楽浄土に行けるチャンスを与えてやったにも関わらず。だれかが反省さえすれば良い……じゃ」
老人の言葉に、ローラー女が歩みを止めて振り返った。
「だって……あの男も天国行きになるなんて耐えられないから……」
老人は黙って頷いた。
鬼たちに連れられて、五人は地獄の門へと姿を消して行った。
老人は深々とため息をつく。
「やれやれ……本当に自分勝手な者や心の狭い者が増えたわい。他人を思いやる気持ちや、許せる気持ちさえあればのぅ……」
老人は、再び舟に乗り込む。
「さて、次の亡者を迎えに行くかのぅ……次はどんな理由が待っておることやら……」
舟は暗鬱な黒い川をゆっくりと渡り始めた。
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