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……雨の日にはそんなことを考える。こんなものはいわゆる世界五分前仮説なんかと似たようなもので、それが事実か嘘かは確かめようがない。同時に確かめる意味もない。
だが、こうして目の前に降りつける水のかたまりを見ると、これを当たり前と捉えている自分たちが、実は滑稽な存在なんじゃないか、そういう思いにとらわれる。
ベランダから右手を伸ばす。雨は俺の手のひらにあたり、反射した水が手首に触れる。無秩序に降ってくる雨の1個、その落ちて来た場所を覚える。しばらく見続けて見ても、全く同じ場所には当たらない。いや、当たっているのだとしても、俺は自分の記憶を絶対的に信じることが出来ないがために分かっていないだけで、実際は何度か同じ場所に当たっているのかもしれない。
雨の勢いが増して来たので、手を引っ込めて窓を閉める。その時、なんとなく自分の右手を見つめる。手は雨に濡れている。俺は意味もなく自分の手を舐めた。水道の水より少しだけしょっぱい。だがただの水だった。
雨の勢いはぐんぐん強まり、もはやどしゃ降りだった。俺は窓の中から外を見上げる。くすんだ灰色の雲がどこまでも広がっているように見えた。
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