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「ごはんよ、ごーはーんー」
階下から声が響く。母が呼んでいるのだろう。
腰を浮かせようとして……ふと、両親は何で俺を育ててくれるんだろう、と思った。おそらく心からの愛を注いでくれているのだ、現状何の対価も生み出せない俺に対して、別に返済を求めたりもせず、無償で。
あまりに都合が良すぎるんじゃないか……これもまた、はたから見ていると何てご都合主義なんだと思ってしまうような、魔法のようなシロモノなのではないか。それこそ、この世界における雨のように、存在することに何もおかしなところがない嘘だったりしないか。
ファンタジー小説の登場人物は、魔法の存在に疑問を持たず、現実の人間は雨の存在に疑問を持たない。ならば、親の愛を疑う事もない。
雨が降るように、親は子を愛する。それはとても素晴らしいことじゃないか。
俺はなんだか良い気分になった。物は考えようということなのだろうか。こうしてみると、幻想は利益しか生み出していない。雨も、愛も……
部屋を出て、階段を降りる。雨粒が物に当たる音が四方八方から包み込むように響いてくる。それが、まるで自然なことのように思えた。
その日の夕食は好物のカレーだった。
雨は止まないままだった。
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