入部届

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 その先輩は半分硬直状態の私の両手をつかんで上下に激しく振り回した。 「ありがとう! これからよろしくね! あ、おれは部長の――」 「ルールを忘れるなよ!」  図書室にいた残りの人たちの一人、めがねをかけていかにもまじめですといった感じの先輩が鋭く声をかけた。 「わかってるよ、クソめがね」 「え?」  いままですごいにこやかだった先輩は顔をしかめて青学年の先輩をにらみつける。  注意した先輩とそのまわりの同じ青学年である二年生の二人の先輩は冷ややかな顔でにこやか先輩を見つめている。  私に向き直ったにこやか先輩はまた表情を明るくして話し始める。 「おれの名前は快晴。雲ひとつない空の『快晴』ね」 「はい?」  まったく意味がわからなくて真顔で聞き返す。 「ぜんぜん伝わってないわよ、バカ」 「う・る・さ・い! お前らにはどうせカンケーないだろ!」  めがね先輩の隣に立っている女の先輩は、なんとなく私の苦手な雰囲気をただよわせている。茶髪に染めたひとつ結びの髪型。片足に荷重して立ち、腕を組んでこっちを見つめている。  その先輩は口元に笑みを浮かべて目を細めた。  舌打ちをして向き直った快晴先輩はやっぱりニコニコしていたけど、首もとの血管が少し浮き出ているようにも見えた。 「で、文芸部には『本名を名乗らない』っていうルールがあるんだ。だから少なくとも部活中はペンネームでお互いを呼んでね。おれのペンネームはさっきも言ったけど――」 「一回言えば伝わります。快晴先輩」  口を開いたのはめがね先輩と茶髪先輩と並んで立っていたもう一人の先輩。幽霊の中に混じってても気づかないかもしれない。石像がしゃべってるみたい。 「相変わらず、ズバッというよな。心にグサグサ突き刺さる」 「快晴先輩の飲み込みが悪いのがいけないんです」 「鋭利なナイフを投げつけられてる気分だ」  実際、言われてるときの快晴先輩の表情はどんどんかげっていく。  石像先輩はそれ以上は何も言わずに、冷ややかな目を私に向けた。  私は五秒も合わせてられなくて、すぐに目をそらした。 「ああ、落ち込まないで。ペンネームを考えつくまでは 適当に呼んでおくからさ。あ、あと入部ってことでいい?」 「もちろん、大丈夫です!」  二年の先輩たちがちょっと怖いけど、憧れの文芸部、逃すわけにはいかない!
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