入部届

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入部届

 私が無事合格したやまびこ高校。  三つの棟に分かれた四階建ての校舎。普通の小学校と同じくらいの校庭、広めの体育館や格技場、テニスコートがある、大きめの高校。  ここを選んだ理由は近くて、偏差値もちょうどよくて、公立で、生徒数が比較的多くて部活も楽しそうで――とにかく楽しそう、楽そうだったから!  入学式を終えて、次の日の一時間目は新入生歓迎会。  運動部・文化部合わせて四十以上の部活があるやまびこ高校。運動部のちょっとふざけた感じの発表やまじめな委員会とかESS部とか。吹奏楽部の合奏に合唱部のコーラス。  でも私が気になっているのはこの後の自由部活動見学!  高校のパンフレットをもらったときから気づいていた、文芸部!  私は国語大好き! 評論はちょっと苦手だけど、小説も古文も漢文もストーリーを読み進めるのが楽しい。  最近は自分の頭で展開させてそれを文にする物語創作にもはまっている。去年は受験勉強そっちのけで三ヶ月くらいつぎ込んで、私の所属していた卓球部の青春ストーリーも書いたよ! 恥ずかしいから誰にも読んでもらったことないけど。  そんな私は愕然とした。見学時間になって新しいパンフレットをもらって、部活動一覧を見て。 「文芸部がない!」  うそだああああああ~。  足元の地面がぱっくり裂けたような心地がした。 「はあ~」  赤色の上履きをはいた新入生でごった返す廊下を私は一人とぼとぼと歩いていた。たくさんの人の邪魔にならないように壁と寄り添って歩く。  なんで、なんで文芸部がないんだろう? 去年のパンフレットでは確かにあったのに。去年のうちに廃部になったのかな。十二月と一月はやばすぎる猛勉強してたからやまびこ高校のホームページぜんぜん見てなかったんだよね。古いパンフレットをボロボロになるまでずっと見てたからなー。ちゃんと確認しておけばよかった……。  さっき驚きのあまり握りつぶしてしまったパンフレットを開く。もう三十回以上は見直してるけど、やっぱり『文芸部』の文字はない。  パンフレットの学校平面図の卓球場に目を落とす。『卓球部』は自由見学と練習体験をやっていた。  見学終了まであと一時間はある。 「いまからでも卓球部行こうかな。そんなにうまいわけじゃないけど」
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