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「僕も好きだよ」
吉沢くんが言う。いつにも増して、真剣な表情だった。
「それって、友達として……?」
わたしは信じられずに、訊き返した。
「違うよ。僕の彼女になってほしいっていう意味」
さらりと告げられた言葉に、わたしは硬直する。
ふと、吉沢くんの耳が、ほんのりと赤くなっていることに気がついた。いつも飄々としていて、つかみどころのない不思議な性格をしている彼でも、こんなふうに照れることがあるんだとわかり、わたしは小さく笑ってしまった。
「笑うなんてひどいなー。こっちは渡邉さんを傷つけないように、ずっと耐えていたのに」
いつもの口調で、だけど少し早口に、彼は言った。
「吉沢くんが照れているところ、初めて見たから。なんか新鮮で」
「そうかな。こういうふうに、渡邉さんの手に触れたときとか、けっこうどきどきしていたんだけど」
わたしの左手に、吉沢くんの右手が重ねられる。
「え、え」とわたし。
「僕のこと、ずっと見ていてくれたよね。いっしょのクラスになってから、ずっと」と彼は追い打ちをかけてきた。
「知っていたの……?」
「言ったでしょ、僕は人の心が読めるって」
ばれていないどころか、ぜんぶ筒抜けだったようだ。
「これからはもう、堂々と見てくれていいんだよ」
からかうような口調。
一時は冷静さを取り戻していたわたしの心は、羞恥で再び大荒れる。
彼の声も、彼の掌の感触も、すべてが愛おしい。
そんなわたしを、彼は心底おもしろそうに見ているのだった。
わたしは、これからも吉沢くんに翻弄されていくのだろう。
それはきっと、幸せな日々に違いない。
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