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想いは隠せない
「僕には不思議な力がある」
オレンジ色に染まった教室で、彼は唐突に言った。
わたしがぽかんと口を開けていると、人の心が読めるんだ、と彼は続けた。
「へえ、以外。吉沢くんもそういう冗談を言うんだね」
わたしは平静を装い、彼のあどけない笑顔に絡め取られまいと、視線を机の上の当番日誌に落とした。シャーペンを動かし、日誌の空欄を埋めていく。
うまく動揺を隠せたかどうかわからない。人の心を読めるなんて嘘だと決まっているのに、自分の気持ちが見透かされてしまっているのではないかと、一瞬、本気で考えてしまった。前の席に座る彼の気配を間近に感じ、心臓がどきどきと高鳴る。
「いまなにを考えているか、当ててみようか」
吉沢くんのからかうような声が、耳をくすぐる。
「どうせ当たらないよ」
「渡邉さんは、僕の言葉にひどく動揺している」
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