想いは隠せない

1/6
前へ
/6ページ
次へ

想いは隠せない

「僕には不思議な力がある」  オレンジ色に染まった教室で、彼は唐突に言った。  わたしがぽかんと口を開けていると、人の心が読めるんだ、と彼は続けた。 「へえ、以外。吉沢くんもそういう冗談を言うんだね」  わたしは平静を装い、彼のあどけない笑顔に絡め取られまいと、視線を机の上の当番日誌に落とした。シャーペンを動かし、日誌の空欄を埋めていく。  うまく動揺を隠せたかどうかわからない。人の心を読めるなんて嘘だと決まっているのに、自分の気持ちが見透かされてしまっているのではないかと、一瞬、本気で考えてしまった。前の席に座る彼の気配を間近に感じ、心臓がどきどきと高鳴る。 「いまなにを考えているか、当ててみようか」  吉沢くんのからかうような声が、耳をくすぐる。 「どうせ当たらないよ」 「渡邉さんは、僕の言葉にひどく動揺している」
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加