わたしは彼を好きじゃない

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 そう自分に言い聞かせていたら、あ、とハルカが声を上げた。視線はわたしを通り越し、廊下の奥に向けられている。  振り返れば、こちらに歩いてくる犬飼の姿が視界に映った。なんと間の悪い。顔を逸らすよりもはやく、目が合ってしまう。 「よお」と犬飼が手を上げる。 「聞いたよ、告白されたんだってね」  出会ってしまったからには仕方がない。わたしは挨拶もなしに、犬飼に言った。彼は驚いたように目を見開いたあと、「ん、まあな」と鼻の頭を掻いた。「誰だか気になる?」 「別に」と素っ気ない態度をとるわたしの横で、「気になる、気になる!」とハルカが元気な声を上げた。わたしは知りたいような知りたくないような、複雑な思いを抱く。 「御手洗さんだよ。御手洗彩音さん」  気恥ずかしいのか、犬飼はしきりに首筋を撫でていた。  ええ、とハルカが大げさに驚いた。「御手洗さんって、あの? うわ、すごい。上玉じゃん」 「上玉って……」もう少し別の言い方ないのかよ、と犬飼が困ったように笑う。  御手洗彩音の名前と顔は、わたしも知っている。同学年の女子の中で、抜きん出てかわいいと評判の子だ。同じクラスにはなったことがないし、実際に話したこともなかったけど、校舎ですれ違ったときにちらりと見たら、確かに整った容姿をしていたのをおぼえてる。
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