わたしは彼を好きじゃない

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 犬飼とわたしは、小学校からの腐れ縁だ。家が近所だったため、昔から暇さえあればふたりでよく遊んでいた。  気の置けない友人だった。犬飼の前では、わたしはなにひとつ偽ることなく、素のままの自分でいられた。  中学、高校と上がるたびに、複雑になっていく人間関係に馴染むため、わたしは処世術を嫌でも身につけていった。自分を着飾ることに苦しさをおぼえることもあったけど、それでもなんとかやってこられたのは、あいつの存在があったからだろう。辛いとき、悲しいとき、あいつのところへ行けば、不思議と気持ちが落ち着いた。  女子同士のくだらない見栄の張り合いに疲れていたわたしを、あいつは慰めてくれた。  変な先輩に付きまとわれていたわたしを、あいつは助けてくれた。  ある日、犬飼から「おまえ、彼氏つくらねーの?」と訊かれた。「うーん、なかなかいい人がいなくて」と答えたら、「なら、俺は?」と返してきた。思わず、わたしは犬飼の顔を凝視した。ひどく真面目な表情だった。わたしは咄嗟に、「もう少し身長が高かったら、考えてたかも」と言った。あいつはほんの一瞬だけ顔をこわばらせ、だけど、すぐにいつもの生意気な少年のような顔に戻ると、「理想ばっか高いと、いつまでたっても彼氏できねーぞ」と笑った。  うまく笑い返せたかどうかは、よくおぼえてない。
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