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「ひなたが、ぜんぜん振り向いてくれないから。おまえなんか眼中にない、みたいなことも言われるし。だから、どうにかして、おまえの気を惹きたかった」
柄にもなく、たどたどしい口調だった。
「もし俺が誰かと付き合うことになったら、おまえが自分の気持ちを自覚してくれるようになってくれるんじゃないかと思って。だから、御手洗さんに頼んで、俺に告白したふりをしてもらって、春香には、ひなたの背中を押してもらうようにお願いしたんだ」
わたしは狐につままれたような心境だった。
つまり、わたしはこいつの手の平で転がされていたってこと? 告白されたと聞いて、わたしが焦ることを計算して?
御手洗さんはともかく、ハルカまで協力していたことに呆然とする。やられた。まったく見抜けなかった。
「驚いた。まさかあんたが、ここまで智慧の働くやつだったなんて」
「言っておくけど、サッカー部の中ではけっこう頭がいいほうなんだからな、俺」
「わたしよりは下でしょ」
「うっ、それは……言い返せない」
しばらく睨み合って、わたしと犬飼は、どちらともなく笑い出した。
想いを打ち明けられて、胸のつかえが下りる。こいつに一杯喰わされたことは腹立たしかったけど、それを打ち消すぐらい、うれしさがこみあげてきていた。
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