80人が本棚に入れています
本棚に追加
「ご注文のコーヒーでございます。」
女性のウェイトレスが静かにコーヒーカップを置く。
そういえばこんなもの頼んでたっけ。すっかり忘れていた。
前で茶封筒の中身を見る冴子の顔はまだ見れていない。
コーヒーを三口すすり、秒針がたっぷり五周した頃、ようやく冴子は口を開いた。
「嘘......」
腹の底から絞り出したような暗くて重たい声だった。
「昨日の夜、俺もそれを見せられて。健康診断で分かったことらしい。」
「うん...そうなんだ。」
「あんまり驚かないんだね。」
「そんなこと言わないでよ。そういう性格だって知ってるくせに。」
確かに冴子はあまり感情を表に出さないタイプだ。相談相手を冴子にしたのもこの理由からだった。
「それで、そのあと何が起こったのか分からずぼうっとしてたらいつの間にか活子は寝ちゃってて、このまま家にいても何も考えられないから外に出たんだよ。」
「うんうん」
「家の前を歩いたことは覚えてるんだけどそのあとの記憶がなくて、気が付いたら朝になっていて、それでリビングに行ったら活子が泣いてたんだ。クッションにこうやって顔をうずめて。」
静雄は顔をうずめるしぐさをする。
「クッションはすごいびしょびしょだったから、たぶん一晩中泣いてたんだと思う。俺が帰ってきたときもずっと。」
「ああ、一回寝たけどそのあと起きちゃったってことか。」
「そう」
静雄は大きくため息を吐いた。
最初のコメントを投稿しよう!