別れ道

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小さな密閉容器に入れられてしまった理緒のお母さんの遺灰。 「人間に戻りたいと思ったわけじゃない。あの事件は、誰にも予測できなかった。相手は自由なヴァンパイアたちだ。人を襲うのが当たり前のアイツらにとって、あの時の俺と母さんはただの餌だったんだよ」 弱肉強食。 自然界ではごく当たり前の事で、魔物だから特別なわけじゃない。 人が死ねば誰もが悲しむけれど、人はいつか死ぬ。 そして、私たちも多くの生物の命を頂いて生きている。 「確かにルールは存在するけど、そもそも、この世界に存在するはずのない魔物から人間や動物を守るために作ったルールだ。それに、もとを(ただ)せば人間の悪しき感情が魔物を生み出したわけだし」 その言葉の裏には、私の知らない歴史があるような気がする。 長い年月を生きてきた魔物は、たくさんの記憶を持っている。 私たちが持っている記憶よりも遥かに多くの記憶の中に、いろいろな感情を抱き、様々な不満を抱いたのだろう。 「美優が人間に戻るというのなら、俺はこのままヴァンパイアとして生きていく」
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