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涙がこぼれ落ちて、硝子のようにぱりんと割れた。
触れればそれは氷になっていた。ひどく冷たい。そして、鋭い。
――いや、冷たいのは私の心だろうか。
鋭いのは私の心だろうか。
むかし読んだ本を思い出す。
バナナで釘が打てるなんて、どんなに冷たいかと思っていたけれど、ここはそれよりも冷たい気がする。
顔を手に当てる。冷たくてたまらない。
吐く息はたちまち真っ白になる。
それなのに自分はひどく不釣り合いな夏の衣装で、肩もでているような恰好で、それは寒くてたまらないのも当たり前だ。
凍り付いた息は自分にそっと降り注ぐ。冷たい、痛い。
自分の罪がそうさせているのだろうか。
――罪?
ここはどこだろう。
素足で一人、ぺたぺたと歩く。足は既に冷たさにマヒしている。痛みすら感じられない。ただひたすら重い。
昔絵本で読んだ、地獄とかだろうか。
こんなところに来るわけも無いと思っても、実際歩いているともうよく判らない。ただただ、重い足を引きずっているだけのような気もする。
……そう言えば、一度だけ、雪の上で素足で歩いた。とても小さい頃だ、それにあまりに冷たくてすぐにやめてしまったし。それを急に思いだしたら、なんだか笑えてきてしまった。
どうして今こんなところでこんなふうにしてるの。
そう思ったら、笑ったら、不意に意識がひどく鮮明になった。
目を開けたら、誰かが泣いている。……母だ。
冷たい冷たい、重い足の感触。
それを訴えると、母は更に泣きじゃくった。
「言いづらいけどね、……お前、交通事故に遭って、膝から下を……」
……足が重い。冷たい。
いったいどこで、この重みを、痛みを、感じているんだろう?
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