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君は幸せになる
大好きな人たちがいる。
その人達が幸せになってくれれば、何もいらない。
だから、いくらだって祈るよ。
私にはそれしかできないけど。
いくらだって祈るよ。
私の全てをかけて祈るよ。
***
それは昔からこの家にいた。遠い遠い昔、あまりにも古いこの家が建ってすぐから、ずっとずっといた。
それは幼い子供の姿をしていた。肩で切りそろえた黒髪に赤い紐を結わえて、薄紅色の振り袖に身を包んでいた。
それは、自分が何者かも知らなかった。ただずっとこの家にいた。
それは、この家の者達を好いていた。誰も自分を知らないのに。誰も自分を見ないのに。誰も自分を感じないのに。それでも、この家の者達を好いていた。
ただ一人、時の進むことのない自分を、誰かが置いて逝く度にわんわん声をあげて泣いた。住人が新しい住人を連れてくると跳ね上がって喜んだ。新しい命が生まれれば泣いて祝福した。住人が彼女を知らなくとも、彼女にとって住人は家族だった。
一方的で構わなかった。誰にも何にも知られなくて構わなかった。彼らが幸せなら、何もいらなかった。
***
住人が増えた。新しい小さな命。その子は、今の家主の四番目の孫で、長男夫婦の二番目の子だった。
赤ん坊は、それを見つけるとうれしそうにきゃっきゃっと笑った。
特に驚きはしなかった。子供というのは、不思議なモノが見えるものだ。現に、この子の兄も父も、自分が見えていた。今までと同じように、この子もすぐに見えなくなるだろう。そういうものだ。
布団の横に膝をつき、腕を支えに前に乗り出して、まだぽわぽわの頭をなでた。赤ん坊が「うきゃあー」と楽しそうな声をあげる。それもくすくすと笑った。
「君が幸せになりますように。」
私がいっぱいいっぱい祈るよ。
***
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