うさぎとにんじん

　Ｍ子とは、月イチのペースで会って、飲んであれこれ語り合う仲が、大学卒業以来５年ほど続いている。１年ほど前、長年付き合っていた恋人に手酷い振られ方をしたＭ子は、しばらくの間相当に落ち込んでいたのだが、ここ数カ月はやけに機嫌がいい。

　その日も、ワインを空けて上機嫌のＭ子に、

「最近やけに元気よね。『新しい彼』でも出来た？」と尋ねたところ、

「そんなんじゃないよ。ただちょっと、いいストレス解消法を見つけたって感じかな？」

　そう素っ気なく答えると、Ｍ子は新しいワインを頼もうと、メニューに顔を向けてしまった。

　話したけりゃいつか自分から話すだろう。とりあえず、Ｍ子が今幸せならそれでいいと、私も話題を切り替えた。

「ところで、この間のウサギ小屋の事件、どうなったの？」

　先ごろ、Ｍ子が英語教師として務める私立中学で、飼育中のウサギが何者かの手によって惨殺されるという事件が起きた。学校側のもみ消しで、マスコミはさほど騒ぎ立てなかったが、殺されたウサギは、耳をもがれたもの眼をくりぬかれもの内臓を掻きだされたもの、その全てが極めて惨たらしい状態であったと言う。