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店の奥には今まで父の姿があった場所、作業台と工具がある。
これからは、自分がこの作業台に座り時計を修理していくのだ。
グリスは責任感と緊張で気が重くなる。
父は手先も器用で几帳面な性格だった。
几帳面な性格は父に似たものの、どちらかといえば母の血を色濃くついで不器用で、物事に対し臆病な面がある。
几帳面な父が店を開いたときから欠かさずにしていたことは、店の清掃と販売品の時計を磨くことだった。
グリスもそれに倣い、固く絞った布で什器の埃をふき取っていく。
仕上げに乾いた布で二度拭きをすると、商品が美しく見える。
時計はセーム皮で一つずつ優しく磨くと、その輝きは一層増した。
作業台を挟んでこじんまりとした4人がけのテーブルに長椅子が2台。
これは修理で持ち込まれた客人と話をするために用意されたものである。
什器を拭いた布とは別の布で、それらも丁寧に綺麗にしていく。
店の窓際には鉢植えの、背の低いオリーブの木があった。
それにも水をやる。グリスの物心が付いたあたりに母が「店に置きたい」と買ってきた細い苗木は、いつの間にか太く大きくなっていたが、この木が実をつけた姿を見たことがない。
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