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シェリーは時計を預け、店を出て行った。
彼女がたどたどしかったのは「落とした」という嘘を隠すためだったのかもしれない。
グリスは彼女にどうして時計を落としたのかは一切聞かなかった。
「で、お前たち。」
子供たちには聞きたいことがたくさんあったが、まず叱るべきは仕事の邪魔をしたことだろう。
「お客さんが来てるときは静かにしてなさい!」
「えへぇ、ごめんなさぁい」
悪びれもせず、レディアは柔和に笑って言った。
「でも、本当にこれ危ないよ。」
ミメルがテーブルに置かれた時計をじっと見つめる。
「何が危ないんだ?」
振り返ったミメルと目が合う。
「人には感情があるだろ。感情って振り子のようなもので『驚く』と左右に振れるんだ、たとえばこんな風にさ。」
ミメルはグリスの手の甲を強い力で抓る。
「いって!何するんだよ!」
「今、グリスは僕に抓られて『痛い』という感覚に驚いただろ。それで、怒りに似た感情を僕に抱いたはずだよ。」
抓られた部分は赤くなっている。
「…冷静に考えてみて。これから先、グリスにとってもっとも大切になる部分なんだ。」
いつにない真剣な表情でイルナがグリスに言った。
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