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同時によみがえってきた記憶に、春一の脳に再び血が巡りだした。
渾身の力を使って目を見開く。
「あいつはどうした。どこにいる」
腕を支えに起き上がろうとしたら、全身を貫くような衝撃が走った。
ああ、痛いんだと後から気づいた。
結局起き上がれなくて、また寝転んでしまっている。
「ジッとしてろハル。血が止まらねぇ」
「動かないで春兄」
いきなり覚醒した春一を、弟たちはふたりがかりで抑えつけてくる。
でも春一の腕はもう自重も支えていられない。
「……くそっ」
しかし、あの男がまだその辺にいるのなら、呑気に寝ている場合ではない。
弟たちが、一緒にいるのだ。
なんとしてでも起き上がろうとする春一に、
「動くなって言ってんだろうが!」
秋哉は怒鳴って、力一杯押さえ込んできた。
ただその位置が、傷口の真上だったから堪らない。
秋哉にしたら、もしかしたら止血のつもりかもしれないが、これは止血というより、掴みかかって捻りあげている。
「――ッ……」
さすがの春一も、激痛に気が遠くなる。
と、
「大丈夫だから。あいつはボクがやっつけた」
冬依の声。
「ボクの鉄アレイ入りのカバンで殴ったら、おとなしくなったよ」
……鉄アレイ入りのカバン。
「……そうか」
ヘタをすれば死人が出るカバンだが、冬依ならそんなドジは踏まないだろう。
『しかし冬依のやつ、鉄アレイなんか持っていって、何をするつもりだったんだ?』
疑問は残るが、遠くに聞こえるパトカーのサイレンを聞いて、春一はやっと安心して意識を手放した。
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