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鈴音は毎日、春一の顔を見ては泣く。
「俺は大丈夫だから、だから頼むから鈴音、泣きやんで」
いくら春一が言っても、鈴音にもどうしようもないらしくて、
「だって春さんが目を開けてくれると、勝手に涙が出てきちゃうんです」
「……」
もう一刻も早く退院して鈴音を安心させてやりたいのに、周りがそれを許してくれない。
春一は世間的に今、
『通り魔から身を挺して女の子を救ったヒーロー』
になっている。
「嘘だろう――」
と最初春一は笑い飛ばそうとしたが、しかし鈴音は、
「夕べもテレビで、春さんってば手放しで褒められてましたよ。愛想のいい好青年だって。でも全然知らない人でしたけど」
涙を拭いながら言う。
「……そう」
これまで仏頂面だの大仏顔だの、弟たちからは散々に言われてきたのに、愛想がいいなんて誰が言うのだろう。
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