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朝、平和ないつも通りの風景のはずだった。
子どもたちが並んで登校し、スーツ姿の大人は腕時計を気にしながら足早に歩いていく。
そんな日常の景色の中に、いきなり、
「キャーッ!」
絹を裂くような悲鳴が聞こえた。
カメラをかまえていた春一は、身を起こして首をねじ曲げる。
「ハル!」
「春兄、なにごと?」
それまで一緒にいた弟たちがついてこようとするのを制して、
「そこにいろよ」
春一はひとり駆け出していく。
最初に目に入ったのは、ランドセルを背負った子どもたちだ。
何かに追い詰められたように、そろって壁際に身を寄せている。
子どもたちの脇には、地面にへたり込んでしまった見守りボランティアの保護者もいる。
悲鳴をあげたのは彼女らしくて、震えながら顎をあげて何かを見ていた。
『何を見ている?』
彼女が怯えた目で見ているのは、子どもたちの前に立つ男。
壁の前で両手を広げて、子どもたちを囲いこんでいる。
よれよれのジャージ姿のそいつは、右手にナイフを握っていた。
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