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その後は春一が、新宿界隈で暴れ回り飲食代はあまねく踏み倒しているとか、ホストを殴って街から追い出したとか、毎晩違う女性を連れて大騒ぎしているとか、下世話な話がセンセーショナルに語られていた。
そして最後には、
「誰もが口をつぐむ暴力団組員襲撃事件の真相」
のタイトルで、
「K氏は以前にも指定暴力団佐々部組組員を集団で襲撃、暴行したとの噂があり、本誌はその真実を探るために取材を敢行した。
だが関係者は一様に口をつぐんで取材を拒否。その頑なな態度に、ますますK氏への疑惑を深めた」
と締めくくられている。
誌面を飾った春一の写真だけ見れば、サングラス姿も板に付く、どこかのアイドルのスクープネタのように見えるが、内容のハードさがギャップとなり、多くの読者が記事に飛びついた。
それがテレビにも取り上げられ、春一が入院していた病院の周りは以前にも増して取材陣が押しかけ、大騒ぎになったのだ。
記事は、真実でないにしても、まるっきり出鱈目でもない。
だから釈明も出来ない。
叩けば埃が出る春一の日常なことが、今になって悔やまれる。
弟たちや鈴音を病院に出入禁止にしたことは賢明な判断になり、春一はまもなく退院を促され、入院した当初が嘘のように、ひっそりとひと目をごまかすようにして退院することになった。
弟たちに迎えに来てもらうわけにもいかない。
病院の前には、カメラをかまえた記者が虫のようにいる。
春一はひとりで病院を出た後、家にも帰れず、こっそりと身を隠している。
それでも心配させるわけにもいかないので、夏樹とだけは連絡を取るようにしていた。
秋哉や冬依、鈴音はダメだ。
電話ごしに泣かれでもしたら、春一は耐えられない。
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