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春一と電話が繋がっていることがバラされても、電話の向こう側は静かなままだ。
鈴音は黙っている。
やっぱり泣かれてしまったのか、それともいい加減愛想をつかされたのか。
後者でないことを祈るばかりだが、前者であっても、春一の望むところではない。
すると、
「ダイエットします春さん」
鈴音の声。
「みんなが甘やかすから、私すっごく太っちゃったんです。もうどうしようって感じなんです」
ものすごくはしゃいだハイテンションな声だ。
「……鈴音」
だからこそ春一は悟った。
やっぱり鈴音は泣いていたのだ。
でもそれを隠そうと必死で演技している。
「……っ」
ついまた謝ってしまいそうになるが、それでは鈴音の努力を無駄にしてしまうと、春一は言葉を止める。
そして結局、
「……元気そうだ」
そんな、的外れなことしか言えない。
気の効いたセリフひとつ出てこない。
それが春一だ。
鈴音は、
「大丈夫。元気ですよ」
ことさら明るく答える。
「夏樹が美味しいものをたくさん作ってくれるから、このところ食べ過ぎなんです。夏に海に行くのが怖いです」
「海か、いいね」
春一も鈴音に合わせて他愛ないことを話す。そんなことに、幸せを感じる。
鈴音には、いつだって笑っていてほしい。
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