109人が本棚に入れています
本棚に追加
幸い、春一が我に返って笑い出す前に、ふたりはスポーツウェアに着替えをすませた。
被っていたカツラも外して、いつもの普通の高校生と中学生の姿に戻って、
「あれって、体のどこを鍛える機械なんだ? ガッコーじゃ見たことねーな」
「チェストプレスマシンだよ。ボクこれ、家でも欲しかったんだー」
好奇心丸出しでマシンにまとわりついている。
絶対に買えないから、是非ここで満喫していってもらいたい。
そしてトレーナーたちも、丁寧に、初心者の秋哉や冬依の面倒をみてくれた。
春一の報道を知っているはずなのに、白い目で見てくることもなく、弟たちに親切に接してくれる。
ありがたい。
それから鈴音も、
「雨山さんはフィットネスが希望とのことですね。本日は私がマンツーマンで指導させていただきます。マシンに慣れていないと怪我の原因にもなりますから」
トレーナーが専属で張り付いてくれるらしい。
春一は夏樹を振り返り、
「何かしたのか?」
春一が入会した当初から、こんなに懇切丁寧だっただろうか?
サボリ気味の最近だが、その間に経営者が変わったのではと思えるぐらい手厚い。
夏樹は、
「そりゃあ、あいつらのお陰だよ」
今はもうそれぞれに、トレーニングマシンに挑んでいるホスト仲間たちを振り返る。
そうだった。
ここはビジターでは入れない完全会員制のジムだ。
20人はいるだろう彼ら全員が、春一を弟たちと再会させるためだけに、このジムに会員登録してくれたのだとしたら、
「……みんなにもすまなかったな」
「何がだよ」
夏樹はシレッとしているが、夏樹が彼らに頼んでくれたことは想像に難くない。
最初のコメントを投稿しよう!