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夏樹はトレーナーを牽制するように目を離さないまま、立ち上がる鈴音に手を貸してやる。
そしてここで、余裕たっぷりの笑みを付け加えるのが夏樹だ。
「他の男に、勝手に触られてんじゃねーよ」
人を食った夏樹の物言いにムッとしたのか、
「何をバカなことを。これは怪我しないためのトレーニングの一環で――」
言い返そうと顔をあげたトレーナーと、夏樹の後に立っていた春一の視線がぶつかる。
「――」
その瞬間、トレーナーは息を飲んだ。
何か言いかけたことも、喉の奥で止まる。
夏樹は首を傾げて、
「言いたいことがあるなら言えよ」
追い打ちをかけていく。
トレーナーは、
「ああ、いえ……」
無理やり首をねじ曲げるようにして目をそらす。
「それじゃあ、ボクはこれで……」
そのまま目を合わせることなく、そそくさと去っていった。
「……なんだよアレ」
夏樹は呆れて見送るが、その時夏樹の背後で春一がどんな顔をしていたのか、唯一夏樹だけが知らない。
こっそり成り行きを見守っていた他のホストたちは、一斉に床に目を落として、けして顔をあげようとしない。
春一と目が合うのが、ちょっと恐ろしすぎる。
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