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確かに、春一はこのボクシング設備を目的にしてジムに通っていた。
それは夏樹も知っている。
だけど、
「春、なんで今なんだよ」
いつもとまったく変わらない調子で、地下への階段を降りていく春一に、ふいに不安になる。
「鈴音と話さなくていいのか?」
呼びかけても、春一は背中を向けたまま、腕だけをバイバイと振った。
別にこれでお別れなわけじゃない。
地下に降りるだけで、春一がどこかへ行ってしまうわけでもない。
だけど、何故だかものすごく落ち着かない気分になった。
夏樹は思わず、隣に立つ鈴音を見下ろす。
鈴音も目をキョドキョドさせて、夏樹のことを見上げてきた。
こうやって視線をかわしても、鈴音がどう思っているかなんて、夏樹にはわからない。
もちろん、春一が何を考えているかも、さっぱりわからない。
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