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春一の姿は、階段を降りたすぐに見つけた。
他に客の姿はなく、そこにいたのは春一だけだったからだ。
「……夏兄」
冬依がキュッと夏樹のTシャツをつかんでくる。
「ああ」
夏樹は返事を返したが、冬依を振り返ってやることは出来なかった。
春一から目が離せない。
サンドバッグを一心不乱に叩く春一から、目が離せなくなっていた。
ボクシングエクササイズのフロアでサンドバッグを叩くのは、別に不自然なことじゃない。
至極当たり前のメニューだ。
だけど、春一の様子が、まとう異様な雰囲気が、夏樹たちの足を止めてしまった。
秋哉も冬依も、そして夏樹も、階段の途中で動けなくなってしまう。
何故だかそれ以上先に進むのが、
『危険』
と感じる。
そこにいるのは春一のはずなのに。
弟たちが尊敬してやまない長兄のはずなのに。
『これ以上はヤバい』
頭の中の警報アラームが、兄弟そろって最大ボリュームで鳴り出している。
それと対照的に、フロアの中は静かだ。
「――」
ただ春一がたてるサンドバッグのパンチ音だけが激しく響いている。
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