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日の差し込まない路地裏に、春一の荒い息づかいが響く。
男が動かなくなって、ようやく春一は体を起こした。
立ち上がり、流れるままだった自分の鼻血を乱暴に拭う。
とたん、鼻についた血の臭いに、思わず嘔吐いた。
吐き気を耐えて、喉の奥に飲み込む。
よろける足を壁に手をついて自重に耐える。
そこに、
「これまた、派手にやったね」
声がして、春一はハッと顔をあげる。
新手かーー。
だが姿を現したのは、
「……長島」
長島貴久だった。
「キミにそっちの名前で呼ばれると、変な気がするね」
長島貴久は、こことは別の場所では吾妻と名乗っている。
長島は、付き従っていた黒服の男たちに、
「片付けて」
当たり前のように命じて、男たちは春一が畳んだふたりをどこかへ引きずっていった。
血だまりがずれて、地面にヘタクソな絵を描く。
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