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「使うかい?」
長島がブランドのハンカチを差し出してきたが、
「いらねぇ」
春一はそっぽを向いて、自分のポケットを探る。
アダルトな広告が入ったクシャクシャのポケットティッシュが見つかった。
春一は無造作に袋を破って、束のまま鼻を押さえる。
「とんだアンチヒーローだね」
少し前の報道を知っている長島は嫌みったらしくそんなことを言う。
「ほっとけよ。俺は最初からヒーローなんかじゃない」
「まあ、それはウチに乗り込んできた時から知ってるさ」
ニュースでも報道された『暴力団関係者との噂が高いN興産のCOO』とは、もろにこの長島貴久を指している。
そして長島貴久が跡取りとして籍を置く長島興産は、世間的にはまだ長島組と称される巨大組織。
春一は以前、ここに単身乗り込んだことがある。
その頃のことを引き合いに出す長島だが、そんな長島自身が一番食わせ物だと春一は思う。
この辺り一帯を占める物騒な組織の後継者。
しかし外見は、週刊誌を飾った春一に負けないくらいの優男。
長島は、春一に無視されたハンカチを自分の口元に持っていき、これ見よがしに眉をひそめてみせる。
「こいつらが来たってことは、もうすぐ決着かな?」
「さあな、俺の知ったこっちゃない」
「ごまかすねぇ。まだ明かせないってことかい?」
「知らねぇって言ってんだろ――」
神経が高ぶっているせいか、つい声を荒げてしまう春一だが、長島の方は余裕たっぷりだ。
「どうした? 狂犬じみてきたな」
笑ってさえみせる。
「ーー」
春一は思わず下を向く。
体中の血が、まだ熱い。
「そうだね、そっちがキミの本性だったよね」
長島が唇の端をあげておかしそうに言う。
「むしろ今まで隠していられた方が奇跡だ」
そういう長島の方が、秘めた牙を持っている。
春一よりよほどするどい、そして強大な牙を。
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