うらぶれた気配ただよう午前中の飲み屋街

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そして、春一が書いた記事が週刊誌の紙面を飾る。 『戦慄! 渡口総合病院のモルヒネ横流し事件。人を救うべき病院が、社会に薬物依存を解き放つ狂気』 その雑誌が発売された同日、渡口総合病院には警察の家宅捜索が入り、マスコミは寝耳に水の話で訳もわからず右往左往した。 それもそのはず、渡口総合病院は疑惑のヒーロー来生春一が入院していた当の病院で、マスコミ関係者が連日押し寄せていた場所だ。 にもかかわらず、そのような病院の不祥事は誰も把握していなかった。 まもなく、渡口総合病院の渡口義彦院長が逮捕され、記事の真偽が疑いようもなくなったころ、春一は追記記事を書いた。 『本紙記者は別件でこの渡口総合病院に入院中、病院の元医師が、当時、指定暴力団、佐々部組が行う生活保護の不正受給に手を貸していたという情報を得た』 記事には、春一が入院をきっかけにして、この渡口病院の元医者が暴力団構成員に言われるまま、健康診断書を偽造していたのを知ったこと。 しかしその件を調べているうちに、追い出されるように病院から退院を迫られた経緯などが書かれていた。 それでも病院と佐々部組との繋がりを追っていると、やがてモルヒネの横流しという新事実に突き当たる。 『病院ぐるみでモルヒネの横流し。それは暴力団の莫大な資金源になると同時に、先日、登校中の小学生が薬物中毒の男に襲われるという、恐ろしい事件に発展した』 読者は春一が書いたこのセンセーショナルな記事に飛びつき、マスコミもこぞって病院が荷担した犯罪を追いはじめた。 そして春一は、また正義のヒーローに逆戻りしたのである。 今度は社会悪を暴く、イケメンジャーナリストとしてだ。
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