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「春兄、もう帰ってこないのかな」
ポツリと呟く冬依に、
「冬依っ」
夏樹は声を上げるが、
「ーーっ」
すでに遅かった。
鈴音が堰を切ったようにポロポロと涙をこぼしている。
だが、本人は泣くつもりがないところが切ない。
必死に声を堪えている鈴音の気持ちが痛いほど伝わってきて、3人は唇を噛む。
兄弟たちは鈴音が泣くのが何より辛い。
ここに春一がいない以上、誰が鈴音の涙を止められるというのか。
「鈴音」
夏樹が呼びかけると、鈴音はハッと気がついて顔をあげた。
その瞬間、またポロリと涙が零れる。
「ごめん、泣いちゃって」
鈴音は慌てた様子で、目をゴシゴシとこする。
「私は平気だから」
夏樹は椅子をならして立ち上がった。
弟たちは心配そうな顔でこちらを見ている。
その前で、夏樹はそっと鈴音の手を取った。
「よせ。こすると腫れちまうぞ」
鈴音は、
「ああ、そうね。……そうだね」
戸惑いながらうつむく。
手で抑えていないと、涙は止められない。
だけど夏樹に手を取られたままだから、泣き顔を隠すためには顔を伏せるしかない。
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